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「やればいいんでしょ」と言う人は、何を考えているのか

「やればいいんでしょ」の裏側に潜むもの

「……わかったよ、やればいいんでしょ」

そう言って、ガチャンと音を立てて置かれたグラス。あるいは、チャットツールに打ち込まれた、句読点のない無機質な承諾の文字。

その瞬間、あなたの胸に去来するのは、どんな感情でしょうか。 「やっと引き受けてくれた」という安堵? それとも、「そんな言い方しなくても」という苛立ち? あるいは、自分でも説明のつかない、冷え冷えとした虚しさでしょうか。

この言葉は非常に残酷です。 表面上は「Yes(承諾)」の形をとっていながら、その実、中身は「No(拒絶)」よりも鋭いトゲを含んでいるからです。

他部署への仕事の依頼、あるいは家庭内での家事の分担。 どちらも「指示」ではなく「お願い」から始まる、対等なはずの人間関係。 そこでなぜ、この「やればいいんでしょ」という言葉が生まれてしまうのか。そして、私たちはそのトゲをどう受け止め、どう自分を守ればいいのか。 言葉の裏側に潜む「本音」を紐解いてみましょう。


1. 対等だからこそ難しい「貸し」と「借り」のバランス

上司と部下であれば、そこには職務上の命令権があります。理不尽であっても「仕事だから」という大義名分で無理やり動かすことができる。(それもまあまあ良くないパターンが大半ですが)
しかし、他部署の同僚やパートナー、つまり「横の関係」においては、そうはいきません。

私たちが何かを頼むとき、実は無意識のうちに相手の「善意」や「余裕」という名の貯金を切り崩しています。 「やればいいんでしょ」という言葉が漏れ出すとき、それは相手の貯金が底をつき、赤字になっているサインです。

たとえば、他部署へ急ぎの案件を投げたとき。 相手には相手の、あなたには見えない「今日の戦場」があります。締め切り、トラブル、上司からのプレッシャー。そこに、あなたの「ごめん、これだけお願い!」という一言が降ってくる。 相手にとってそれは、最後の一滴でコップの水が溢れるようなものかもしれません。

「本当は断りたい。でも、断ったら角が立つ。協力体制が崩れる。だからやるしかない。でも、私のこの苦しさを少しは分かってほしい・・」

その葛藤が煮詰まり、凝縮されて、一滴の涙のようにこぼれ落ちたのが「やればいいんでしょ」なのです。
彼らはあなたを攻撃したいのではない。
ただ、「もういっぱいいっぱいなんだ」という事実を、これ以上ないほど不器用な形で叫んでいるのだと思います。


2. 「鏡の法則」の呪縛を解く

心理学でよく言われる「鏡の法則」。相手の態度は自分の心を映す鏡である、という教え。
とても大切なものですが、真面目な人ほど自分を追い詰めることにも繋がったりします。

「相手があんな態度を取るのは、私の頼み方が傲慢だったからだろうか」 「私の日頃の行いが、鏡として返ってきているのだろうか」

もしあなたが今そう思っているなら、まずはその肩の荷を下ろしてください。 対等な関係における「鏡」とは、あなた個人の人間性を映すものではありません。それは、「二人の間に流れている空気のよどみ」を映しているだけです。

夫婦関係を例に考えてみましょう。 夕食後の片付けを頼んだときに返ってくる「やればいいんでしょ」。 これは「あなたのことが嫌い」という鏡ではなく、「今の私たちの生活に、お互いを思いやる余白がなくなっている」という現実を映す鏡です。嫌いじゃないんだけどついつい…というパターンが多いと思います。

鏡に映った自分の顔が疲れていたら、鏡を磨くのではなく、まずは自分を休ませますよね。 それと同じです。
相手の言葉にトゲがあったとき、自分を責める必要はありません。
「ああ、今、私たちの間の『余裕の貯金』が空っぽなんだな」と、客観的な事実に気づくだけで十分。
犯人探しをやめることが、関係の冷え込みを止める第一歩になります。


3. 言葉の「あたたかさ」を取り戻すための処方箋

では、具体的にどうすれば、このザラついた空気を変えていけるのでしょうか。
今すぐ関係を劇的に変える魔法はありませんが、明日から試せる「小さな処方箋」のような習慣はあります。

① 「なぜ、あなたなのか」に光を当てる

人は「誰でもいい仕事」を押し付けられたときに、最も強く「やらされ感」を抱きます。 他部署に頼むなら「この分野の知識は〇〇さんのチームが一番頼りになるから」。
パートナーに頼むなら「私はこれが苦手だけど、あなたは手際がいいから」。
「便宜上の依頼」を「あなたへの信頼」というものに包み直すだけで、受け取る側の手のひらに伝わる温度は変わります。

② 「ありがとう」のタイミングをずらす

感謝は、事が終わってから伝えるものだと思っていませんか? 実は、トゲを抜くのに有効なのは「先払いの感謝」です。
「忙しいのに聞いてくれてありがとう。助かるよ」
依頼の冒頭にこの一言があるだけで、相手は「自分の状況を理解してくれている」という安心感を得ます。理解されていると感じたとき、人は攻撃の矛先を収めるものです。

③ あえて「間」を置く、あるいは逃げる

「やればいいんでしょ」と言われた瞬間、こちらまで「じゃあいいよ、自分でやるから!」と火がついてしまう。これは最悪のパターンです。
もしトゲを投げられたら、あえて数秒、何も言わずに沈黙してみてください。 沈黙は、相手に自分の放った言葉の響きを、自分自身の耳で聞き直させる時間を与えます。 そこで言い返さず、「……ごめん、無理を言っているのはわかってる。でも助かるよ」と静かに伝える。大人の余裕を見せることは、自分自身のプライドを守ることにも繋がります。


4. 「完璧な理解者」を目指さない勇気

ここまで書いておいてなんですが、結局のところ、他人の心なんて100%理解することはできません。
同じ部署で働いていても、同じ屋根の下で暮らしていても、相手が今日どんな言葉に傷つき、どんな不安を抱えているのか、そのすべてを知る術はないのです。

「やればいいんでしょ」という言葉が出てしまう職場も、家庭も、それはそれで一つの「リアル」な形です。
いつもキラキラした笑顔で協力し合えるチームなんてなかなかありません。
そんな中で毎日の感情の起伏を受け止めながら過ごしていっているわけです。

大切なのは、相手のトゲにいちいち自分の心を刺しにいかないことです。
「ああ、今日はあの人も天気が悪いんだな」 「私のせいじゃなくて、単に低気圧のせいかもしれない」

相手を変えようとするエネルギーを、自分の機嫌を直すために使う。
あなたが鼻歌でも歌いながら自分の仕事を片付けている姿を見れば、相手も自分のトゲの鋭さに、ふと恥ずかしくなる瞬間が来るかもしれません。
組織でも家庭でも、なるべく自分の機嫌を取りながら上機嫌でいることが大事なんですね。


最後に

「やればいいんでしょ」という言葉に、胸を痛めているあなたへ。

あなたがその言葉を「痛い・・」と感じるのは、あなたが相手との繋がりを、雑に扱いたくないと思っているからです。
その繊細さは、弱さではなく、人間関係を築く上での素晴らしい才能です。

でも、その才能を、自分を傷つけるために使わないようにしましょう。
まずは、今日一日を乗り切った自分に、とびきり甘いコーヒーでも淹れてあげてください。
相手の不機嫌は、相手の問題。 あなたの平穏は、あなたのもの。
他人と過去は変えられませんからね。

少しだけ距離を置いて、深く呼吸をする。
そんな「自分ファースト」な瞬間が、巡り巡って、誰かとの関係を一番柔らかくしてくれるはずですから。

「人間力・組織力」向上コンサルタントの秋葉慎太朗でした。

エアポート人財育成の専門家。11年間の成田空港での経験と中小企業診断士の知識を元に、人と組織が明るく成果を生み出す研修や組織変革の支援を行っている。人間力と組織力を向上することで、新事業展開や魅力ある職場づくり、委託元のレビュー向上に繋げます。

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