空港や運輸の現場では、日々さまざまな判断が求められます。
トラブル、調整、イレギュラー対応──どんな場面でも「間違えられない」緊張感があります。
その中で、リーダーがどんな姿勢でチームと向き合うかが、現場の空気を決めているように思います。
私が現場で学んだのは、「すべてを完璧にしようとしないリーダーほど信頼される」ということでした。
今回は、そんな気づきを与えてくれた一人の上司の話をしたいと思います。
「困ったらいつでも言ってね」
成田空港で通信関連の仕事をしていた頃、給油事業部のNさんという上司がいました。
厳しい一面もありましたが、どんなに忙しい時でも私が相談に行けば、必ず手を止めて話を聞いてくれる人でした。
口癖のように「困ったらいつでも言ってね」と言ってくれていて、その一言にどれほど救われたかわかりません。
ある日、給油事業部の中で、通信・電装設備などの短期的な更新計画を作る業務を任されたことがありました。
主体的に動くことに慣れていなかった私にとっては大きなプレッシャーでしたが、Nさんはこう言ってくれました。
「秋葉くんならできるよ。いろいろとお任せします。」
判断を否定されることは一度もなく、まずは受け入れてもらえる。
その安心感が、挑戦する勇気につながっていました。
裁量を任せてもらうことで生まれる「成長の実感」
Nさんのもとでは、安心して挑戦できる空気がありました。
部署を跨いだ交渉はときにタフで、時には厳しいやり取りもありました。
それでも、内部向けの調整や技術面での意思決定はスムーズに進めることができた。
背景には、Nさんが信じて任せてくれているという確かな感覚がありました。
「余白」という言葉を使うなら、Nさんには“人を活かす余白”があったと思います。
何もかも自分で判断しようとせず、部下の成長を見守るような温かさ。
「ここは自分の出番だ」と思える場面を、自然と与えてくれる存在でした。
「余白」があるからこそ、人は自ら動き出す
リーダーが完璧であろうとすると、チームは息苦しくなります。
すべてを自分で抱え込めば、周囲は「言ってもムダかもしれない」と感じてしまう。
一方で、Nさんのように「わからないことがあってもいい」「任せてみよう」と思えるリーダーは、チームに安心を与えます。
その安心感があると、メンバーは自ら考え、行動し始める。
判断を委ねられる経験が、結果として人を育てていくのだと思います。
余白とは、手を抜くことではなく「信じて待つ」姿勢。
その信頼が、チームの主体性を育てていくのです。
強さと優しさのバランス
もちろん、Nさんにも「もっと前に出てほしい」と思うことはありました。
特に外部との交渉では、私たち若手が折れずに粘るような場面も少なくありませんでした。
ただ、今振り返ると、あの時Nさんが前に出なかったのは「私たちを信じていたから」なのかもしれません。
自分たちで壁を越える経験を、あえて与えてくれていたように思います。
「守ってくれる上司」ではなく、「信じてくれる上司」。
その違いが、私にとって大きな学びでした。
受容が信頼を生む
人から信頼されるためには、まず相手を受容すること。
これは今、私が研修講師として伝えていることでもあります。
相手の意見にすべて同調する必要はありません。
でも「話を聞いてもらえない」と思われた瞬間、信頼関係は崩れてしまう。
リーダーは、相手の意見と自分の意見が違っても、その違いを受け止める強さを持たなければなりません。
受容とは、相手を“認める”ことではなく、“理解しようとする姿勢”そのもの。
Nさんは、その姿勢をいつも背中で見せてくれました。
余白は信頼の証
空港や運輸の現場は、緊張とスピードの連続です。
だからこそ、リーダーが“余白”を持つことがチームを守る力になります。
余白とは、「相手を信じる心のスペース」。
自分がすべてを決めなくても、チームは動ける。
それを信じられる人こそが、本当の意味でのリーダーだと思います。
完璧さより、誠実さ。
正しさより、信頼。
Nさんから学んだその姿勢は、今の私のリーダー観の礎になっています。
