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【当たり前の大切さ】御巣鷹の尾根に登って、仕事の意味を見つめ直した日

1985年8月12日18時56分。日本航空123便が御巣鷹の尾根に墜落し、520名の尊い命が失われました(生存4名)。私が生まれる前の出来事ですが、空港に関わる仕事をしてきた者として、ずっと心のどこかに引っかかっていました。40年という節目を迎える今年、現地に足を運び、自分の目で見て感じたことを記しておきます。


なぜ、いま登るのか

空港の現場に携わり、これからも航空・空港の現場に関わっていくと心に決めたからこそ、「当たり前の安全」の重さを自分の身体で確かめたかった。この事故が起こってしまった場所を知らなければいけない、それが出発点でした。報道や書籍で知るだけでは絶対に足りない。
現場に立ち、手を合わせ、静かに向き合いたい。そう思って、御巣鷹の尾根へ向かいました。


道のりと、尾根に満ちる“静けさ”

登山口で最初に耳に入ったのは、沢の音でした。穏やかで、どこか優しい響き。しかし道は見た目以上に険しく、途中で何度も息を整えながら進みます。やがて尾根が近づくと、「早く行きなさい、見に行きなさい」と背中を押されるような感覚があり、最後の階段を一気に上がりました。

結構息が上がっていたのですが、御霊の声(?)に励まされ、なんとか登頂。

到着した瞬間、音がすっと消えました。風も虫の声も遠のき、そこにあるのは静寂だけ。
昇魂之碑の前では、色々考えていた言葉は出てきません。思わず膝をつき、黙って手を合わせ、祈りました。

尾根からは、右主翼が山肌に当たって削られた痕跡(いわゆる「U字溝」と呼ばれる場所)も望めます。
ただただ、想像を絶する事実が刻まれていることを、うまく表現できる言葉が出てきませんでした。


墓標に刻まれた“日常”と“夢”

山道の途中には多くの墓標が並びます。可能な限り一つひとつに手を合わせました。10代、20代、9歳や6歳――これからの人生が確かにあったはずの人たちの名が胸に迫ります。供えられたディズニーの品々を前に、当時のご家族の旅支度や高揚感がありありと浮かび、言葉が詰まりました。

旅行の喜びを胸に、楽しい思い出を持ち帰るはずだった――その“当たり前”が途切れた事実の重さに、ただ涙がこぼれました。

1人1人が夢を持っていたはずです。その瞬間まで確かに持っていた…
やはり適切な言葉がなかなか思い浮かびません。ただただ、そこにある重さを感じていました。


いただいた言葉が胸に残った

この体験をSNS(Facebook)に書いたところ、たくさんの声をいただきました。

  • 「当たり前の大切さを、改めて感じた」
  • 「尊い命をお預かりする仕事であることを忘れないように」
  • 「朝は無事を願い、夜は無事に感謝する。その積み重ねが安全を守る」

安全は一部門の仕事でも、誰か“だけ”の責任でもありません。毎日の小さな行動と確認、声かけ、そして感謝――その連続が、私たちの「当たり前」を支えていますよね。

空の安全を、守ってくれている人たちに本当に感謝したいです。


私が受け取ったメッセージ

御巣鷹の尾根には、語りかけてくる“静けさ”と”重さ”がありました。
だけど、”悲しみ”は意外と薄かったのが印象深いです。

私はこの場所から「護」と「生」というメッセージを受け取りました。

「護」は、この悲惨な事故を守り伝えていく、風化させないという覚悟。空の安全を守り続けていくという覚悟。御巣鷹山の尾根を整備し守っていくという覚悟。ここに眠る御霊たちを見守り続けていくという覚悟。

「生」は、今、生きているという当たり前のことに感謝するということ。今、家族と過ごせて笑いあえているということに感謝すること。今、夢を持って仕事ができているということに感謝すること。大切な人にありがとうが言えることに感謝すること。

どれも、本当に大切なことだと思っています。

私は、「心から満たされ、愉しく働ける明るい組織」を増やしたいと考えています。だけど、根底にあるのは安全と安心です。安全と安心が無ければ、心から満たされることはあり得ません。
安全と日常を守るのは、特別なスローガンではなく、当たり前を丁寧に積み重ねる姿勢です。


結びに

御巣鷹の尾根で手を合わせながら、「いま、ここにある当たり前」の尊さを全身で感じました。あの日失われた命に、改めて哀悼の意を表します。

そして、今日も空と現場を支えてくださっている多くの方々に、深く感謝しています。
私も、私にできる役割を果たしていこうと思っています。

誠実に、当たり前を守り、その先の笑顔と誇りに繋げていきます。

私なりに覚悟を決めて行った慰霊登山でしたが、本当に行って良かったと思っています。

※現地はご遺族・地域の皆さまが大切に守ってこられた場所です。
訪れる際は御霊たちが眠る場所であることを深く尊重して、案内に従って行動してくださいね。