魅力的な人財

安全と楽しさは両立できるのか――現場で“当たり前”にしていく話

こんにちは、エアポート人財育成の専門家 秋葉慎太朗です。
空港や物流の現場で働いていると、「厳しくしないと安全は保てない」「楽しさを持ち込むと緩む」という言葉に出会います。私は、空港の現場経験と中小企業診断士としての視点から、はっきりこう思っています。安全と楽しさは両立する。しかも、うまく設計すれば互いを底上げする関係になります。

もっと言うと、私の”愉しさ”というのは心(感情)が満たされて作用されると考えています。
つまるところ、ああだこうだ事細かく指示されるのではなく、守るべきルールを明文化して、みんなでそれを守ろうとする空気を作っていこうよ、というものです。


1. 「厳しさ」は二種類ある

まず整理したいのは、現場で言われる“厳しさ”には二種類あることです。
ひとつは規律の厳しさ。手順が明確で、役割がはっきりし、合図やルールが誰にとっても同じ意味で解釈できる状態。もうひとつは感情の厳しさ。怒号、皮肉、威圧で人を動かそうとするやり方です。

安全に効くのは、前者だけ。感情の厳しさは、報告や相談の口を閉ざしてしまいます。ヒヤリとした体験が共有されず、静かだけれど危うい現場になっていく。規律は強く、感情は穏やかに。 ここが出発点です。


2. 守りやすい仕組みをつくる

安全は「根性」で守るものではなく、「仕組み」で守るものです。たとえば――

  • 手順や動線を記号や色で統一し、口頭説明に頼らない。
  • 工程表は最短時間だけでなく、安全のための余白を最初から含める。
  • 合図は身振り+短い言葉で固定し、誰が入っても同じやり方になる。
  • 迷いが生じる場面ではツーマン(2名)で確認するのを“普通”にしておく。
  • 「迷ったら止める」権利を明文化し、止めた人を肯定する。

どれも特別なことではありません。けれど、こうした工夫が積み重なると、現場から「不必要な迷い」が消えていきます。迷いが減るぶん、人は仕事そのものに集中できる余白を取り戻します。ここに“楽しさ”の土台が生まれます。


3. 明るさは安全行動を増やす

「楽しさ」と聞くと、賑やかさやイベントを想像されるかもしれません。私が言う“明るさ”は、もっと実務的です。情報が早く、素直に流れる状態のこと。

  • 大きくはっきりした声が飛び交い、合図が通る。
  • 小さな違和感でも「ちょっと待って」と言いやすい。
  • その場の判断がそろいやすく、無理な作業を避けられる。

雰囲気だけの話ではありません。言いやすさ・助けやすさが確保されるほど、未然防止の行動は増えます。結果として、安全は強くなる。ここに“楽しい現場は緩む”という誤解を解く鍵があります。


4. 「楽しい」をもう少しだけ分解する

現場でいう“楽しい”は、レクリエーションではありません。次の三つが揃うと、人は自然に前向きになります。

  1. 意味がわかる
    自分の作業が全体のどこに効いているのかが見えている。
  2. 裁量がある
    決められた枠の中でも、任せてもらっている実感がある。
  3. 認められる
    節目で短い言葉がかかり、よい判断がきちんと“見える化”される。

この三つは、そのまま安全にも効いてきます。意味がわかれば注意は続き、裁量があれば資源を正しく使え、承認があれば良い行動が定着する。楽しさは、安全行動の燃料なのだと思います。


5. 現場に合うスピードで

仕組みづくりは、規模の大きさとは関係がありません。たとえば、出発便のある一工程だけを対象に、現場の人たち自身で合図や言葉の型を決めてみる。やってみて合わなければ、翌週に直せばいい。完璧を目指すよりも、無理なく続く形に落とすことが何よりも大切です。


6. 結びに

安全は「守りやすい構造」でつくり、楽しさは「意味・裁量・承認」で育てる。両者は対立するものではなく、むしろ互いを強くする関係にあります。両立できるんです。


規律はしっかりと、感情は穏やかに。迷わない手順を用意し、言いやすい空気を整える。そんな当たり前の積み重ねが、心から満たされ、成果を出し続ける明るい組織を日常にしていく――私はそう信じています。