ITが苦手な人ほどDX担当に向いている ― 空港と中小企業の現場で学んだ、本当に大切なこと

1. DX担当はITが得意な人がやるものだと思っていた
こんにちは。空港ビジネスの「人・組織」価値向上コンサルタント、あきばやコンサルティングの秋葉慎太朗です。
「DX担当って、やっぱりITに詳しい人がやるものですよね」
現場でよく聞く言葉です。確かに、そう思うのは自然なことだと思います。DXという言葉にはデジタル、テクノロジー、AIといったイメージが強くついてまわる。だとすれば、そういったものに詳しい人が推進役に向いている、という考えは一見筋が通っています。
正直に言うと、私自身もかつてはそう思っていました。
成田国際空港で働いていた頃、ITやセキュリティ関連のプロジェクトに関わる中で、技術的な知識を持っていることが仕事の武器になる場面は確かにありました。システムの仕様を理解している、ツールの使い方を知っている。それは間違いなく強みでした。
でも、現場での経験を積み重ねていくうちに、少しずつ考えが変わっていきました。
技術を知っていることと、DXをうまく進めることは、どうも別の話らしい。うまくいくプロジェクトとそうでないプロジェクトの違いは、技術力の差ではなかった。そこに気づいたのは、あるプロジェクトでの経験がきっかけでした。
2. 正しいシステムを入れても、使われなければ意味がない
空港で働いていた頃、空港内に情報検索端末を設置するプロジェクトに担当者として関わったことがあります。タッチパネル式で店舗情報を検索できる、いわゆるデジタルサイネージに近いシステムでした。店舗側は管理画面から情報を更新でき、来訪者はその場で目的の店を調べられる、という設計でした。
機能としてはきちんと動いていました。
ただ、私の中にもずっと引っかかりがありました。当時すでにスマートフォンの普及が進み始めていた時期です。来訪者のほとんどは自分のスマートフォンで調べればいい。わざわざ端末の前に立ち止まって操作する理由が、どれだけあるだろうか。
「このシステム、本当に必要なのだろうか・・」
担当者の一人としてプロジェクトに関わりながら、その疑問が最後まで消えませんでした。なぜこれを導入するのか。誰がどう使うのか。その問いに対して、腑に落ちる答えを得ないまま、プロジェクトは進んでいきました。
無事設置されたのは見届けていますが、現在の利用状況がどうであるかはわかりません。
利用者の立場で考えると、あってもなくても変わらない存在だったのではないかと今でも感じています。
コンサルタントになってからも、よく似た話に出会います。
ある中小企業が、大手商社が卸しているERPを導入しました。投資額は1,000万円を超えるもの。
見積書の作成、請求書の発行、在庫管理、受発注管理……確かに機能は豊富で、システム自体は立派なものでした。
しかし実際に現場で使われているのは、見積書と請求書の発行だけでした。
なぜか?
在庫管理の機能は、入力項目が多く、現場の担当者にとって負担が大きかったからです。(しかも、入力の仕方もわかりづらい
もともとの仕事のやり方に合っておらず、使いこなすには相当な習得時間が必要でした。
忙しい現場では「それどころじゃない」という状態になり、結局は従来のやり方を続けています。
そしてしばらくして、別の在庫管理ソフトを改めて検討しようという話が出始めました。
1,000万円以上かけたシステムがあるのに、です。
システムが悪かったわけではないですし、機能は揃っていました。
ただ、現場の実態が見えていなかった。そして、現場の要望をきちんとヒアリングできる人員もいなかった。
誰がどんな流れで仕事をしていて、何が負担になっていて、何なら続けられるか。
そこへの想像力が、導入の判断に反映されていなかった。
こういったものは実際のところ、ITの問題ではなく人への理解の問題なんです。
3. DXで失敗する人は、解決策から考えてしまう
ITが得意な人には、ある種の「見えやすさ」があります。
課題を聞いたとき、「あ、これはあのツールで解決できる」「こういうシステムを入れればいい」という答えが、比較的早い段階で見えてしまう。それ自体は決して悪いことではありません。でも、その「見えてしまう」という感覚が、DXの文脈では時として邪魔をすると思っています。
答えが先に見えると、人はその答えに向かって動こうとします。現場に説明し、メリットを伝え、早く導入しようとする。でも現場の人たちは、システムを入れたいわけではありません。
今の仕事を少し楽にしたいだけです。
しかも、変化には不安がつきまとう。
新しいシステムが入ると、操作を覚えなければならない。仕事の流れが変わる。これまでのやり方が通じなくなるかもしれない。そういった不安は、たとえ合理的に「便利になる」と頭でわかっていても、なかなか消えません。
DXの現場でよく見かける「現場の抵抗」の多くは、実はシステムへの反発ではありません。「自分の仕事が変わることへの不安」です。その不安に向き合わないまま、ツールの便利さだけを伝えても、人は動きません。
ITが得意な人ほど、この不安を軽く見てしまいがちです。「使ってみればわかる」「慣れれば簡単」という言葉は、発している本人に悪意はなくても、受け取る側には「あなたの不安は大したことない」と聞こえてしまうことがあります。
解決策から考えることは、「相手の話を聞く前に答えを出すこと」でもあります。そこに、DX推進が行き詰まる最初の入口があります。
4. うまくいくDXは、小さく始まる
では、うまくいくDXはどんなものか。
私がこれまで関わってきた中で、実際に現場に根づいた改善を振り返ってみると、大規模なシステム刷新はほとんどありません。
Googleカレンダーを使って予約受付を半自動化したケース。勤怠管理をアプリに切り替えたケース。これまで紙でやり取りしていた書類をPDF化したケース。決裁フローを電子承認に変えたケース。
どれも、派手さはありません。投資額も小さい。
でも、最終的には現場に残っています。
共通しているのは「ちょっと楽になる」という感覚を現場の人が得られた、という点です。
操作を覚えるコストよりも、楽になる実感が上回った。だから続いているんだと思います。
スモールスタートという言葉がよく使われますが、小さく始めることの本当の意味は「リスクを減らすこと」ではないです。
「現場が受け入れやすい変化のサイズにすること」だと、私は考えています。
大きな変化は大きな不安を生みます。小さな変化は小さな不安しか生まない。
そして小さな成功体験が積み重なると、人は少しずつ「変わることも悪くない」と思えるようになっていきます。
DXは一気に変えるものではありません。
少しずつ、人が前に進めるように整えていくものだと考えています。
(大きな変化は大概良くない方向に進んでしまっている経験も多いです)
5. 私が変化の前にやっていること
コンサルタントとして現場に入るとき、私はシステムの話をすぐには始めません。
まず、その人の話を聞くことから始めます。
どんな一日を過ごしているのか。朝から晩まで、どんな仕事がどういう順番で流れているのか。何に時間がかかっているのか。何がしんどいのか。何を大切にしながら働いているのか。何が変わることが怖いのか。
こうした話を聞いていくと、最初に「困っていること」として挙げられていたものの奥に、もっと別の何かが見えてくることがあります。
ある会社では、「請求書の処理が遅い」という相談でした。でも話を聞いていくと、処理が遅い本当の理由は、確認のフローに関わる人数が多すぎることでした。システムで解決できる話ではなく、社内の承認プロセスを整理するところから始める必要がありました。
過去のミスの再発防止が積み重なり、必要以上に煩雑化してしまっていたんですね。
別の会社では、「在庫の把握が大変」という声がありました。でも実際には、担当者が一人で全部抱えていて、情報が属人化していることが問題の根本でした。ツールを入れる前に、情報を共有する習慣をつくることの方が先でした。
表に出ている困りごとと、その奥にある本当の課題は、ずれていることが多い。そのずれを丁寧に解きほぐしていくためには、まず相手のことを深く知ろうとすることが必要です。
私が特に大切にしているのは、「相手のことを知りたいと思い続けること」です。
これは単に話をよく聞く、という意味だけではないです。
相手が置かれている状況を理解し、その人が感じていることを感じ取り、目線を合わせようとすること。その人が何を大切にしていて、どんな価値観で仕事をしているのかを理解すること。
その上で、「この人にとって負担が少なく、やってみようと思えるのはどんな一歩か」を一緒に考える。
提案はしても、押し付けない。もちろん決めるのは相手です。
人は「私を理解された」と感じると、ちょっと前向きになります。
逆に、話を聞かれないまま「こうすればいい」と言われると、たとえそれが正しくても、動きたくなくなる。
この人間の自然な反応を無視してシステムを導入しようとすることが、DXが現場から浮いてしまう最大の理由だと私は思っています。
6. ITが苦手な人ほどDX担当に向いている
ここまで読んでいただいた方は、もう気づかれているかもしれません。
ITが苦手な人には、ひとつの強みがあります。
すぐに答えが出せない、ということです。
ITが得意な人は、課題を聞いた瞬間に解決策が浮かんでしまいます。
でもITが苦手な人は、そうはいかない。だからまず、もっと教えてほしいと思う。もう少し詳しく聞かせてほしいと思う。
相手に聞くから理解できるし、理解してもらえるんですね。
理解できるから、相手が「これならやってみてもいいかな」と思える提案ができる。
DXで本当に必要なのは、最新技術の知識ではなく、人への関心です。
この人は今どんな状況にいるのか、何に困っていて、何なら受け入れられるのか。
そこに興味を持ち続けられる人が、DXをうまく進められると、私は現場を通じて確信しています。
ITの知識は、あとからでも補えます。ツールの使い方は調べればわかります。
でも、人を理解しようとする姿勢は、知識で身につくものではありません。
「自分はITが苦手だから、DXには向いていない」と感じている方がいれば、少し考え直してみてほしいと思います。
あなたのその「苦手さ」は、むしろ現場の人に寄り添える出発点になるかもしれません。
最新のAIよりも、「最近どうですか?」という一言の方が、DXの入口として機能することがあります。
私はこれからも、システムより先に人を見るDXを広げていきたいと思っています。










