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安全と愉しさは両立する ― 空港の現場で学んだ「明るい組織」とは

1. 「安全」と「愉しさ」は対立するのか

こんにちは。空港ビジネスの「人・組織」価値向上コンサルタント、あきばやコンサルティングの秋葉慎太朗です。

「安全のためには、厳しさが必要だ」という考え方は、今もなお多くの職場に根強く残っています。

特に、航空・鉄道・医療・建設といった現場では、一つのミスが取り返しのつかない事故につながる可能性があります。だからこそ、ルールを守ること、確認を怠らないこと、常に緊張感を持って働くことが求められます。その姿勢自体は、間違っていません。

でも、少し立ち止まって考えてみると。

「安全」と「愉しさ」は、本当に対立しているのでしょうか?

愉しく働いている組織は、緩いのでしょうか。
笑顔のある職場は、危機管理が甘いのでしょうか。
逆に言えば、常に緊張感があり、ミスを厳しく責められる職場の方が、安全性は高いのでしょうか。

私は、成田国際空港で11年間働きました。
ネットワーク、料金システム、そして第3ターミナルプロジェクトなど、さまざまな現場に関わりました。
その経験と今の仕事を通じて、ひとつの確信を持つようになりました。

「安全と愉しさは、対立しない。むしろ、明るい組織の方が良い」

今回は、その確信に至った理由と、現場で感じてきたことを率直にお伝えしたいと思います。


2. 怒られる職場では、人は相談できなくなる

私が若手だった頃、非常に細かい上司のもとで働いていた時期があります。

仕事の精度にうるさく、少しでもミスや確認漏れがあると、「なんでこうなっているんだ」「前にも言ったよな」と、すぐに詰められました。本人は責める口調のつもりではなかったかもしれません。
ただ、毎日のように小さなことで指摘され続けると、次第に心の中に変化が起きてきます。

「またミスしたらどうしよう」という不安が、仕事の中心になっていくんです。

気づいたときには、目標が「よい仕事をすること」ではなく、「怒られないこと」になっていました。

そうなると、行動にも変化が出てきます。
少し不安な案件があっても、相談しに行く気になれない。
自分の判断で処理してしまえば、少なくとも「なぜ相談しなかったんだ」という指摘は受けずに済む。
そう思って、一人で抱え込むようになっていきました。

小さな違和感を感じても、「これくらい自分で判断していいか」「波風立てたくない」という気持ちが勝ってしまう。

ミスをしてしまったとき、正直に報告することへの抵抗感も出てきます。怒られることへの恐れが、正直さよりも大きくなってしまうからです。「バレなければいいか」という心理が、じわじわと育っていきます。

これは、私の弱さの話だけではないと思います。(当時は迷惑をかけていた自覚は多聞にありましたが…)

人は、怒られる環境にいると自分を守ろうとします。
それは自然な防衛本能です。
そして「自分を守ること」が優先されると、「組織の安全を守ること」が後回しになっていく。

安全管理において最も恐ろしいのは、ミスそのものではなく、「ミスが隠れること」です。
小さな違和感が共有されず、誰にも気づかれないまま積み重なっていく。
その先に、大きな事故が待っています。

怒られる職場が生み出すのは、表面上の服従と、内側に蓄積される沈黙と諦めです。
その気持ちが、組織の安全を内側から蝕んでいきます。


3. 明るい組織では、小さな異変を共有できる

一方で、私には全く別の上司のもとで働いた経験もあります。

その方は、よく「大丈夫、なんとかなる」と言いました。
仕事でうまくいかなかったとき、「秋葉の頑張りはちゃんと伝わってるよ」と言ってくれた。
新しいことに挑戦しようとすると、「面白そうだからやってみよう」と背中を押してくれた。

言葉にすると、ごくシンプルなことです。
でも、その言葉の積み重ねが、職場の空気をじわじわと変えていきました。

まず、相談しやすくなりました。
「これ、どうすればいいですかね」と気軽に声をかけられる。
相談したからといって責められないとわかっているから、小さな疑問も早い段階で共有できる。

次に、違和感を口に出せるようになりました。
「なんかこれ、いつもと違う気がするんですが」「ちょっと気になることがあって」という言葉が出やすくなる。
こういった「小さな気づき」が、安全を守る上でとても重要な役割を果たします。

そして、自分から動きたくなりました。一番大きい部分ですよね。
言われたことをこなすのではなく、もっとよくするにはどうすればいいかを自分で考えるようになる。
主体的に動く人が増えると、組織全体の目が増え、見落としが減ります。

明るい組織が安全に強い理由はここにあります。

「安心して声を上げられる空気」があると、情報が流れます。
小さな異変が早い段階で共有され、問題が大きくなる前に対処できます。
心理的安全性という言葉が組織論では使われますが、それが現場の安全に直結しているのです。本当に。

厳しさと緊張感だけで作られた組織は、表面上は整っているように見えても、内側の情報の流れが止まっています。
明るい組織は、その情報の流れが生きている。この違いが、長い目で見たときの安全性の差になって現れてきます。


4. 空港の安全は「人の気づき」で支えられている

空港は、安全に対して非常に厳格な現場です。

国際的な基準に基づいたルール、航空会社ごとのマニュアル、定期的な点検と訓練、複数のチェックプロセス。こうした仕組みが何重にも重なって、飛行機の安全を支えています。

でも、すべての事態をルールやシステムで想定することはできません。

現場では毎日、想定外のことが起きます。天候の急変、機材のわずかな異常、旅客の予期せぬ行動、連絡の行き違い。そういったときに最初に気づくのは、現場で働く「人」です。

「なんかいつもと違うかも・・?」
「これっていいのかな・・?」

この感覚を、誰かに伝えられるかどうか。それが、安全と事故の分岐点になることがあります。

怒られることを恐れている職場では、「いや、自分の気のせいかな」「こんなこと報告したら笑われるかな」という自己検閲が働きます。
声を上げることへのコストが高いと、人は伝えなくなります。

一方、「気になることがあったら何でも言ってね」という雰囲気がある職場では、些細な違和感でも自然と共有されます。
その小さな一言が、大きな事故を未然に防ぐことがあります。

ルールを守ることは大切です。
でも、ルールを守っているだけでは、想定外の事態には対応できない。
最後の砦は、現場の人間の目と、その人間が声を上げられる環境です。

マニュアルは、昨日起きたことに対応するために書かれています。
今日起きることに対応するのは、常に人なんですよね。


5. 第3ターミナルの現場で感じた”熱”

私が「明るさは、待つものではなく、自分でつくれるものだ」と気づいたのは、第3ターミナルの増築プロジェクトに関わっていた頃のことです。

ちょうどコロナ禍が重なった時期でした。航空業界全体が深刻なダメージを受けていた時期に、プロジェクトは続いていました。
現場には不安があり、先行きの見えなさがあり、関係者の間にもどこかぴりついた空気が漂っていました。
半導体関連の機器がまったく入ってこなくなっていましたし。

そんな状況の中で、私にはどうしても関係をうまく築けていない相手がいました。昔からの関係性があまり良くなかった? 今ではそんなことないと思いますが、当時は思っていたんです。
会話が弾まない。少し構えられているような感じがする。
正直、自分から積極的に関わろうとは思えなかった。

でも、あるとき考えを変えてみることにしました。

相手が変わるのを待つのではなく、自分から動いてみよう。
苦手だと感じていても、丁寧に、やさしく、積極的に接してみよう。

おそらくそれまでの私は、無意識のうちに距離を置いていたのだと思います。
「苦手だな」と感じると、表情や言葉のトーンに出てしまう。相手はその空気を感じ取って、さらに壁を作る。
お互いに遠ざかっていく、そういう悪循環でした。

意識的に一歩踏み出してみると、変化は思ったより早く現れました。

相手も、やさしく接してくれるようになりました。話しかければちゃんと返ってくる。困ったことを相談すると、真剣に考えてくれる。「あの人は苦手」と思い込んでいた自分が、少し恥ずかしくなったほどでした。

コロナ禍という困難な状況の中でも、プロジェクトが前に進んでいけたのは、そうした小さな「一歩」が積み重なっていったからだと思います。明るい空気は、環境が整うのを待って生まれるものではありませんでした。誰かが先に動くことで、少しずつ広がっていくものでした。

明るさの元になるのは「愉しさ」です。
その「愉しさ」は安心感と、つながり感と、自分が誰かの役に立っている実感が重なった状態。
それが私の考える「愉しさ」の正体です。
そしてその愉しさは、外から与えてもらうものではなく、自分の行動によって生み出せるものだと、あの現場で学びました。


6. 安全と愉しさが両立する組織をつくりたい

空港での経験を経て、私は今、「空港ビジネスの人・組織価値向上コンサルタント」として活動しています。

「空港と共に働く人が、毎日笑顔と誇りにあふれ、愉しく働けることを当たり前にする」

空港という現場で、笑顔と誇りという点が安全意識と働き方が深く結びついていることを経験してきて、コンサルタントとして広い視野を得たことで持てるようになった信念です。

今の時代、多くの組織が人手不足に悩んでいます。
特に現場を支える仕事は、離職率の高さが深刻な課題になっています。
なぜ人は辞めるのか。
理由はさまざまですが、「ここで働き続けたいと思えない」という気持ちの根底には、往々にして「安心して働けない」という感覚があります。

怒られる。相談できない。自分の意見が無視される。頑張っても認められない。
そして頑張っても待遇が良くならないという諦め感。

そうした環境では、人は力を出しきれません。
そして力を出しきれない組織は、安全の面でも、生産性の面でも、じわじわと弱くなっていきます。

逆に、安心して声を上げられる職場。
ミスを責めるより、なぜミスが起きたかを一緒に考える職場。小さな気づきが共有され、誰かの「なんか変だな」が尊重される職場。

そうした組織では人は長く働くことが出来ます。
主体的に動くし、お互いの仕事を気にかけます。
その積み重ねが、安全性の向上にもつながり、ひいては待遇の向上にも結び付きます。

「安全のためには、厳しくしなければいけない」という考え方を全否定したいわけではありません。
ルールや確認の徹底はどんな組織でも必要です。

ただ、そこだけに頼るのは限界があります。
ルールは想定できる範囲にしか対応できない。
想定外の事態を救うのは、常に「人の気づきと、その気づきを共有できる場」です。

安心して働ける職場が、安全を支える。
愉しく働いている人が、主体的に動く。
その循環が、組織を本当の意味で強くしていきます。

空港の現場で学んできたことを、これからも多くの組織に伝えていきたいと思っています。

安全と愉しさが両立する組織を一つでも多く増やすために。
一人ひとりの想いを大切にして、共鳴を生む組織をもっともっと増やしていきます。

お読みいただきありがとうございました。

エアポート人財育成の専門家。11年間の成田空港での経験と中小企業診断士の知識を元に、人と組織が明るく成果を生み出す研修や組織変革の支援を行っている。人間力と組織力を向上することで、新事業展開や魅力ある職場づくり、委託元のレビュー向上に繋げます。

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