「空気」は誰がつくるのか ― 職場の雰囲気は自然には生まれない

1. 職場の空気は誰がつくっているのだろう
こんにちは。空港ビジネスの「人・組織」価値向上コンサルタント、あきばやコンサルティングの秋葉慎太朗です。
「あの部署、なんか雰囲気いいよね」 「あそこは正直、ちょっと行きたくないな」
同じ会社の中なのに、部署によってこんなに違うものかと感じたことはないでしょうか。
制度は同じです。給与体系も同じ。評価のルールも、休暇の取り方も、基本的には会社全体で統一されている。なのに、ある部署に行くと自然と笑顔が増えて、別の部署に行くと、なんとなく口数が減ってしまう。
私はこの感覚を、成田国際空港で働いていた11年間の中で、何度も経験してきました。
最初は「人によるんだろうな」くらいに思っていました。たまたま気の合う人が多い部署と、そうでない部署。運の良し悪しのようなもの。
でも、いくつかの部署を経験し、異動を重ねるうちに、少し違う見え方をするようになりました。
その「空気」は、本当に自然に生まれているのだろうか。それとも、誰かが、何かが、その空気をつくっているのだろうか。
長年、この問いが私の中にありました。
2. 同じ会社なのに、まったく違う職場がある
空港会社にいた頃、社内にはたくさんの部署があり、フロアを歩いているだけでも、部署ごとの雰囲気の違いを感じることがありました。
きっと、皆さんの会社にもあるのではないでしょうか。
「あそこの部署、なんか会話が多くて賑やかだな」
「あの部署、なんとなく行きたくないな……」
廊下を通りかかったときや、用事でちょっと顔を出したときに、なんとなく感じる空気です。明確な理由は説明できないけれど、「ここは居心地が良さそうだ」「ここはちょっと緊張するな」という感覚が、確かにある。
不思議なのは、それが制度や条件の違いから来ているわけではないということです。同じ会社、同じ就業規則、同じ評価制度。配属されている人たちの能力に、極端な差があるわけでもない。
それでも、部署が違うだけで、漂っている空気がまったく違う。
ある部署では、人と人の間に余白があるように見えました。声をかけやすそうで、ちょっとした雑談も聞こえてくる。一方で、別の部署では、誰もが黒っぽい画面に向かって黙々と作業をしていて、声をかけるタイミングすら見つけられないような静けさがある。
外から眺めているだけなのに、「ここでなら自分も働きやすそうだ」「ここはちょっと身構えてしまうかもしれない」という感覚が、自然と湧いてくる。
この違いは、どこから来ているのだろう。
長い間、私の中にあった問いでした。
3. 忙しいのに、なぜか楽しかったチーム
私がこれまでの空港会社員人生の中で、最も印象に残っているのが、給油事業部にいた時期のことです。
他にも比べるとやさしい部類ですが、それでも暇な部署ではありませんでした。
設備の更新計画、システム対応、関係会社との調整、トラブル対応……次から次へと仕事が来る。
残業もそれなりにありましたし、休む暇もないくらい忙しい時期も何度もありました。
監査対応も多かったですね。
なのに、振り返ったときに残っている感覚は、「大変だった」ではなく「充実していた」なんです。
なぜそう感じるのか、当時はあまり考えていませんでしたが、今振り返るといくつか理由が見えてきます。
チームの規模がコンパクトで、お互いの仕事がよく見えていました。年齢も近いメンバーが多く、気軽に話せる関係がありました。困ったことがあれば、わざわざ「相談していいですか」と切り出さなくても、隣の席に「ちょっとこれ、どう思います?」と聞ける距離感がありました。
そして何より、誰かが何かを失敗したときに、その場の空気が「誰が悪いのか」に向かわなかったんです。「じゃあ、どうする?」という方向に、自然と話が進んでいく。
ミスを責められないとわかっているから、早めに「これ、まずいかも?」と言える。
言えるから、対処が早くなる。対処が早くなるから、大きな問題にならずに済む。
この循環が、忙しさの中にも安心感をつくっていたのだと思います。
そんな中、一人のメンバーが異動になりました。
いつも気軽に話せる人で、今でも交流が続いている方です。
とても前向きな性格で、思い返すと、チームのムードを引っ張ってくれていたのは、その人だったのかもしれません。いいキャラしてますから。
異動が決まったとき、その人がこんなことを言ってくれました。
「今までの仕事人生の中で、一番楽しく充実していた時間だった」
仕事の中で「楽しい」という言葉をもらったのは、私にとって、それが初めての経験だったかもしれません。
その人は特別に仕事が楽だったわけではないです。逆に私より重要なポジションを担っていました。
忙しい時期を一緒に乗り越えてきた一人で、給料が急に上がったわけでもない。
それでもそう言ってもらえたんですね。
この言葉は、今でも私の中にはっきりと残っています。
今振り返ると、私が「安心できる空気が人を前向きにする」と考えるようになった、ひとつの原体験になっているのかもしれません。
人は、楽な環境だから前向きになれるわけではない。
安心できる空気の中にいるから、忙しさの中でも前を向けるんだと、あのチームが教えてくれました。
4. 空気はリーダーの言葉から生まれる
給油事業部で働いていたとき、私が尊敬していた課長がいました。
設備トラブルの多い部署でしたから、現場からは次々と報告や相談が上がってきます。中には、緊急性の高いものや、対応に頭を悩ませるようなものも少なくありませんでした。
その課長は、どんな相談でも、まずじっくり話を聞いてくれる人でした。
報告を持っていくと、急かすこともなく、否定することもなく、どっしりと構えて聞いてくれる。話を最後まで聞いてから、必要なことを一緒に考えてくれる。そういう傾聴の姿勢を、いつも崩さない人でした。
大らかな構えでいてくれることが、こちらにとってはとても助かりました。
トラブル対応では、報告するタイミングが早ければ早いほど、対処の選択肢は広がります。でも、報告する側にとっては、「これくらいで相談していいのか」「もっと自分で何とかすべきではないか」という迷いが、どうしても出てくるものです。
その課長のもとでは、その迷いがあまりありませんでした。
どんな相談でも、まず受け止めてもらえるとわかっていたから、気になったことはすぐに伝えることができました。
当時、その姿を見ていて、「すごいな」と感じていました。トラブルが多い部署で、毎日いろいろな相談が飛び込んでくる中で、いつも変わらない構えでいられる。それは簡単なことではないはずです。
「大丈夫だろうか」と不安なまま相談に行っても、どっしり構えて聞いてくれる人がいる。それだけで、相談すること自体への抵抗感がなくなっていきます。
これは特別なスキルやテクニックというより、その人の姿勢そのものでした。でも、その姿勢が、繰り返されることで、職場の空気そのものになっていく。困ったときに、まず受け止めてもらえる。そういう前提があるだけで、人は相談しやすくなり、早めに声を上げられるようになります。
反対に、いつも不機嫌そうにしている人が一人いるだけで、職場全体の空気は重くなります。
本人にそんなつもりはなくても、周りは無意識にその人の機嫌をうかがうようになる。話しかけるタイミングを選ぶようになる。
リーダーの言葉や態度は、その人が思っている以上に、職場全体に広がっていきます。
5. 人は制度ではなく空気で動いている
会社には、評価制度や人事制度があります。これらはもちろん大切なものです。公平な評価、適切な処遇は、組織を運営する上で欠かせません。
ただ、現場で人がどう動くかを左右しているのは、制度そのものよりも、その場に流れている空気であることが多いと感じています。
挨拶をすると、ちゃんと返ってくる。
何かをしてもらったとき、「ありがとう」が伝わる。
誰かが困っていたら、自然と手が差し伸べられる。
うまくいかなかったときに、「大丈夫」という言葉がある。
こうした、ごく小さなことの積み重ねがある職場では、人は自分から動こうとします。指示されたことだけをやるのではなく、もう少し工夫してみよう、これも手伝ってみようという気持ちが自然に湧いてきます。
逆に、こうした積み重ねがない職場では、たとえ制度が整っていても、人は最低限のことしかしなくなっていきます。
そして、この空気は、誰か一人がつくっているものではありません。
リーダーの影響は大きいですが、リーダー一人の言葉だけで職場の空気が決まるわけではない。
挨拶を返す人、感謝を伝える人、隣の人を気にかける人。そういう一人ひとりの行動が積み重なって、空気はつくられていきます。
6. 私たちは今日も空気をつくっている
職場の空気は、偶然生まれるものではありません。
「おはようございます」
「ありがとうございます」
「大丈夫ですよ」
こうした、何気ない言葉のやり取りが、毎日積み重なって、その場の空気をつくっています。
特別なリーダーや、特別な誰かだけが空気をつくっているわけではない。
そこにいる一人ひとりが、今日もその場の空気をつくっています。自分が発する言葉、自分が見せる態度、そのひとつひとつが、誰かにとっての職場の印象になっている。
そして、その空気は、積み重なることで、やがてその組織の文化になっていきます。
私は、給油事業部での経験を通じて、このことを実感しました。特別なことをしていたわけではありません。
ただ、お互いに「大丈夫」と言い合える関係があり、困ったときに一人で抱え込まなくていい空気がありました。
それだけで、忙しい毎日も、振り返れば「充実していた」と思える時間になりました。
今でもかけがえのない時間だったなと感じています。
職場の空気は、誰かが用意してくれるものではありません。
今日、自分がどんな言葉をかけるか。どんな態度で人と接するか。その一つひとつが、職場の空気をつくっています。
これからも私は、人が笑顔と誇りを持って働ける組織を、一つでも多く増やしていくお手伝いをしていきたいと思っています。











