お問い合わせはこちら

受付時間:月〜金 09:00〜17:30

「早めに相談して」と言うだけでは相談できる職場にならない ― 空港の人財育成に必要な管理職の受け止め方

1. 「早めに相談して」と言われても、相談できなかった

こんにちは。空港ビジネスの「人・組織」のコンサルタント、あきばやコンサルティングの秋葉慎太朗です。

空港会社で働いていた頃、現場ではよく「早めに連絡・相談するように」と言われていました。安全を守るためにも、情報を早く共有することは欠かせない。頭では、その重要性を理解していました。

それでも、私はうまくいっていないことを上司へ伝えるのが苦手でした。

正確には、「報告が苦手だった」というより、まだ解決していない段階で口を開くことに、相当な気合が必要だったのです。相談しようとするたびに、「もう少し状況を整理してから」「解決してから伝えよう」と自分に言い聞かせていました。その結果、報告は遅くなります。当然ながら、早期対応のチャンスも遠ざかる。

今振り返ると、相談しなかったのではありません。相談できる空気が、十分にはなかったのだと思います。

この記事では、私自身の経験をもとに、空港の人財育成において、なぜ「早めに相談して」と伝えるだけでは不十分なのかを考えます。若手に早めの報告を求めるだけでなく、管理職が相談を受けたときに最初にどう反応するかが、相談しやすい職場と安全文化の土台をつくっていると、私は今も感じています。


2. 「なぜ」と聞かれるたびに、自分を責められているように感じた

相談すると、「なぜ、そうなったのか」「どうして、その判断をしたのか」と聞かれることがありました。

原因を確認することは、もちろん必要です。なぜそうなったかを理解しなければ、再発防止にもつながらない。上司に責める意図がなかった可能性もあります。ただ、当時の私には、自分の判断や能力を問われているように聞こえていました。

相談した直後に「なぜ」「どうして」と来ると、状況の共有よりも先に、自分の行動を弁解しなければならない気持ちになります。説明しながら、自分の判断の弱さを認めているような感覚があった。

そうなると、次から相談するハードルはさらに上がります。「また聞かれる」「また弁解しなければならない」という予感が、口を重くします。「どうにかしてから報告しろ」という空気もあったため、自分たちで何とかしようとするようになりました。トラブルが起きても誰も助けに来ない、チームワークが感じられない時期もありました。


3. 「報告」の前に、未完成でも相談できる関係が必要

報告は、ある程度状況を整理してから行うものだという感覚は、多くの人に共通していると思います。「報告」という言葉には、整った情報を上司へ届けるというニュアンスがある。だから、状況が整理されていない段階では「まだ相談できない」と感じてしまう。

でも、現場のトラブルは最初から全体像が見えるとは限りません。原因も影響範囲も分からないまま、問題だけが目の前にある状態が続くことがある。そういうときに、「少し気になることがあります」「この判断でよいか迷っています」と言える関係があるかどうかが、問題の広がりを左右します。

私が言いたいのは、「まず相談してみる」という行動が起きやすい職場をつくることです。整えてから届けるのではなく、未完成の状態で声を上げられる関係。それが、早期対応につながる入口だと経験から感じています。

この点で、空港の人財育成において管理職の役割は大きい。若手に「早く相談して」と求めるだけでは、その入口はなかなか開きません。


4. 自分で判断して復旧させたのに、叱られた

あるとき、機器に不具合が発生しました。私は自分の判断で機器を再起動し、復旧させました。目の前の問題を解決しようとして動いた結果でした。

しかしその後、「それなら保守員の人たちはいらないじゃん」と言われました。

上司が懸念を持ったこと自体は、今なら理解できます。空港の設備には、安全運用や役割分担の観点から、独断で操作してはいけないものもある。そうした基準があることを、当時の私は十分に理解できていなかった。

ただ、問題の核心は別のところにあったと今でも思っています。どこまで自分で判断してよいのか、どの段階で相談すべきなのか、何を基準に行動すればよいのか。これらが当時、十分に共有されていませんでした。

自分で考えて動けば「勝手に判断するな」と言われる。かといって、すぐに相談すれば「自分で考えていない」と言われる。その状態が続くと、考えて行動すること自体が億劫になってきます。主体性を求めながら、判断基準が共有されていない現場では、人は萎縮するか、あるいはどちらに転んでも指摘されるならと思考を止めてしまうかのどちらかに向かいやすい。

航空安全の分野では、安全マネジメントシステム(SMS)の考え方において、インシデントや異常の早期報告が安全文化の重要な要素と位置づけられています。早期に情報が共有されることで、リスクが拡大する前に対処できるからです。しかし、「早く報告させる仕組み」だけを整えても、報告した後の受け止め方が変わらなければ、現場の行動は変わりにくい。


5. 頼れる管理職は、「なぜ」より先に解決を考えていた

一方で、安心して相談できる人も何人かいました。

そういう人たちには共通点がありました。まず、落ち着いていた。状況を聞くとき、焦りや苛立ちを表に出さない。次に、話を最後まで聞こうとしていた。途中で「なぜ」と割り込まずに、まず何が起きているかを一緒に把握しようとしてくれた。そして、「どうすれば解決できるか」を先に考えてくれた。問題が落ち着いた後で原因を振り返ることはあっても、対応中は解決を優先していた。

その人がいると、状況が整っていなくても声を上げやすかった。「まだよく分かっていないんですが」と言っても、「じゃあ一緒に見てみよう」という方向に話が進む。その安心感が、相談のハードルを下げていました。

相談しやすい管理職は、すべてを代わりに解決してくれる人ではありません。現場へ一緒に目を向け、次の一手を一緒に考えてくれる人です。そのことが今は、空港の人材育成支援において私が伝えたいことの核心になっています。


6. 相手を受け入れることは、甘やかすことではない

心理的安全性という言葉が、空港の管理職研修でも取り上げられるようになってきました。ただ、この言葉は誤解されやすい面もあります。

心理的安全性が高い職場とは、何を言っても許される場所ではないし、ミスを見逃し続ける職場でもありません。人の命に関わること、安全を軽視する行動は、必要なことを明確に伝え、厳しく正す必要があります。任された仕事に向き合おうとしない姿勢も、曖昧にしておくべきではない。それを曖昧にすることは、チーム全体の意欲に影響します。

ただ、ここで区別して考えてほしいことがあります。「行動した結果の失敗」と「最初からやろうとしない姿勢」は、同じように扱うべきではないと私は思っています。

若手であれば、経験の浅さがミスにつながることはある。判断が足りずに問題を大きくしてしまうこともある。それでも、何とかしようとして動いた姿勢は受け止めるべきです。反対に、最初から動こうとしない姿勢、工夫しようとしない構え方は、周囲の意欲を少しずつ下げていく。管理職が見るべきは、結果だけでなく、その人が何を考え、どのような姿勢で向き合ったかです。

その区別ができているかどうかが、現場の安全文化にじわじわと影響していきます。


7. 相手を受け入れる余裕が、職場の息苦しさを変える

現場には、相手のミスの細かな点を指摘し続け、常に完璧を求める人もいます。本人は仕事の質を上げようとしているのかもしれない。ただ、そういう人と一緒に働くと、じわじわと息苦しさが積み重なっていきます。

また、自分の保身や立場を優先した行動を取る人がチームにいると、その人への対応だけで周囲の心の余裕が削られていきます。相談しようとしても、どう受け止められるかが読めない。迂回しながら情報を共有しなければならない。そのコストは、目に見えにくいがじわじわと現場を消耗させる。

この状態がなぜ生まれるのかを断定することは難しいのですが、相手を受け入れるだけの余裕や土台がないことから始まっているのではないかと、私は感じています。忙しさ、プレッシャー、自分自身が十分に受け止められてこなかった経験。そうしたものが積み重なると、他者を受け入れる余裕がなくなっていく。

現場の息苦しさを変えるためには、個人の意識を変えようとするだけでは限界があります。管理職がどのように相談を受け止めるか、その積み重ねが職場の空気をつくっていきます。


8. 失敗を重ねたからこそ、今伝えられることがある

私自身も多くの失敗を経験してきました。当時はつらかったことも多かったですし、落ち込む日もありました。
なんで自分はこんなにできないのかと感じることも多々ありました。

ただ、失敗を重ねたことで変わったことがあります。分からないことは、恥を忍んで聞くようになりました。「聞けなかった」経験が、「聞く」ことの重さを教えてくれた。

また、マニュアルも判断基準もない状態で「〇〇をやって」とだけ言われることが、受け取る側にどれほど鋭く響くかも、経験して初めて分かりました。
どこまでやればよいのか、何を基準に判断すればよいのか、失敗したらどうすればよいのか。そうした問いを抱えながら仕事をする感覚は、言葉で説明されるより、経験した方がよく分かる。

今は、そのときの記憶が研修や組織支援の中で伝えられる話になっています。相談できなかった経験があるから、相談できない人の気持ちを少しだけ想像できる。うまくできなかった経験があるから、できない人を前にしたときに焦らずにいられることがある。過去の失敗は、今の仕事の土台を支えていると感じています。


9. 空港の人財育成は、相談を受け止める管理職から始まる

若手に「早めに相談して」と伝えることは、もちろん必要です。
ただ、それだけでは十分ではないと考えています。
相談されたときに管理職がどのような反応をするかが、次に相談しやすいかどうかを決めます。

振り返ってみてほしいことがあります。部
下が相談してきたとき、最初に返す言葉は何でしょうか。
状況を聞く前に「なぜ」と問うていないか。
原因より先に、今どうするかを一緒に考えられているか。
本人が判断してよい範囲を、きちんと共有できているか。そして、現場を見たうえで判断しているか。

「現場を見たうえで判断しなければ、関わる人全員をハッピーにさせる決定はできない」というのが、私が現場で大切にしてきた考えです。管理職室や会議室から見えるものと、現場で見えるものは違う。その差を埋めようとする姿勢が、相談を受け止める力にもつながると思っています。

空港の安全を守るためには、ミスをしない人を育てようとするだけでは限界があります。分からないことを聞き、違和感を伝え、自分なりに考えて行動できる人財を育てる必要がある。そのために、管理職が相談を受け止め、現場を見て、一緒に解決へ向かうことが、安全文化と人財育成の両方を支えていくのだと思っています。


よくある質問

Q. 心理的安全性が高い職場では、ミスを厳しく注意できないのでしょうか。

そうではありません。心理的安全性は、ルール違反やミスを見逃すことではない。人命に関わること、安全を軽視する行動に対しては、必要なことを明確に伝え、厳しく正すことが必要です。大切なのは、相談や報告をした行動自体は受け止め、行動した事実と人格を分けて考えることです。「報告してくれてよかった」という受け止め方が、次の相談へつながります。

Q. 部下からの相談が遅いとき、管理職は何を見直せばよいですか。

「早く相談して」と伝えるだけでなく、相談されたときの最初の反応を振り返ることから始めると思います。原因を問う前に、まず状況を聞き、解決を一緒に考えられているか。相談した後に「また問い詰められた」と感じるような経験が積み重なると、次の相談は遠のきます。

Q. 空港の人財育成で、主体性と安全を両立するにはどうすればよいですか。

主体性を求めるだけでなく、本人が判断してよい範囲、相談すべき境界線、守るべき基準を共有することが必要です。何を基準に動けばよいかが分からないまま「自分で考えて」と言われると、動けなくなるか、動いたとしても方向を誤りやすい。判断基準を示すことと、行動した結果を受け止めることが、主体性を育てる土台になります。


著者プロフィール

秋葉慎太朗(あきば しんたろう) 中小企業診断士 / 空港ビジネスの「人・組織」のコンサルタント / あきばやコンサルティング代表

成田国際空港株式会社に11年間勤務し、IT、セキュリティ、施設・設備、大規模プロジェクトなどに従事。現在は空港関連企業を中心に、人財育成、リーダー育成、組織開発を支援している。

参考資料

・国土交通省「安全マネジメントに関するガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/

・ICAO Doc 9859 Safety Management Manual (SMM), 4th Edition
https://www.icao.int/

・Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.

エアポート人財育成の専門家。11年間の成田空港での経験と中小企業診断士の知識を元に、人と組織が明るく成果を生み出す研修や組織変革の支援を行っている。人間力と組織力を向上することで、新事業展開や魅力ある職場づくり、委託元のレビュー向上に繋げます。

関連記事

目次